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なるほど。また話は変わりますが、しばらく前に音楽の著作権保護問題に関して、とある大学で行なわれたディスカッションに参加して自身の見解を述べたと聞いています。デジタル・メディアの発達に伴って複製技術が発達し、それをリスナーが共有することでアーティストの利益が損なわれることを恐れる人は多くいるようですが、あなた個人の見解を改めて聞かせてください。

Ian:僕は大した問題じゃないと思ってる。だって僕は、金を稼ぐために曲を作ってるわけじゃないからね。人々に聴いてもらうために曲を作ってるんだ。だから、もし人々が、複製したものを聴きたいと思うなら、それで構わないと思ってる。最終的に、もし全てが現在の方向へシフトするなら、誰もレコードを買わなくなるだろうね。何でも無料で手に入るわけだし。そうすると時代が逆戻りして、自分の人生にアートが必要なら――誰でも人生にアートを取り入れるべきだと思うけど――アーティストをサポートしなければならない、という状況になると思う。“芸術の擁護者”と言うと、ビル・ゲイツみたいな、交響楽団に多額の寄付ができる人をイメージするかも知れない。でも実際には、CDを買うのに10ドル払う人だって芸術の擁護者だよ。直接的にアートをサポートするんだからね。僕自身を例に取ってみると、ネット時代以前には、アルバムを出せば売れたのは1000枚くらいだった。今では、仮に50,000人が僕のアルバムを無料でダウンロードしたとする。でも、そのうち10%が、実際にレコードを手元に置きたくて買うかも知れない。僕は楽観視してるよ。アーティストにメリットはあると思う。まぁ、そもそもあまり気にはしてないけどね。僕が大学で著作権について話す時は、ビジネスに絡めた話じゃなくて、音楽をサポートするっていう観点から話してるんだ。レコード・レーベルの経営者に対してだって、僕にはこう言う資格があると思う。「音楽業界・レーベルが大打撃を受けて滅亡したとしても、僕は困らないよ」ってね。

(笑)。

Ian:むしろ喜ばしいことだね。この業界は過去100年間、レコード音楽を事実上独占してきた。そして、僕に言わせれば、音楽のスピリットや意志に対して、非常に深刻なダメージを与えてきた。音楽は、誰もが手に入れられて、誰もが作れるものだ。フリーなんだ。音楽を売ることは出来ない。CDやテープやアナログ盤は売ることが出来るけどね。MP3やポスターやTシャツも売ることも出来る。そういうのはみんな“商品”だから。でも音楽は売ることが出来ないものだ。空気中に漂っているものなんだから。ボトル入りの水みたいなものだよ。川を流れる水はタダだけど、ボトルに詰めた水は売ることが出来る。だからって会社が悪いわけじゃない。僕だって水を買って飲むことはあるし、CDもレコードも買う。買うことは嫌いじゃないよ。でも、他に選択肢がないという状態はよくないね。独占されてはならないものなんだ。音楽業界の強欲な振る舞いは、非常に醜い結果をたくさん生んできた。はっきり言って、音楽を歪めてしまったと思う。レコード会社が売りたいと思うものを作るには、音楽を軽んじて安っぽくする以外にない。レコード業界が、音楽を単なるエンターテイメントとして扱ってきたことが原因だよ。そのせいで、例えばミュージシャンがイラク戦争について意見を述べると「ただのエンターテイナーに政治が分かるはずがない」なんて言う人がいたりする。でもさ、そもそもホワイトハウスにいる人たちだって単なるビジネスマンじゃないか。ビジネスマンに政治の何が分かるっていうんだ? 彼らだって何も分かっちゃいないよ。話を戻すと、音楽がエンターテインすることはあっても、音楽=エンターテインメントじゃあない。エンターテインメント以上のものなんだ。音楽は、言語よりも古くからあるコミュニケイション手段なんだよ。このことははっきり言えるね。だからもし、レコード業界が滅んだら、ベルリンの壁が崩壊した時のような感覚になると思う。「生きてるうちに見れてよかった!」みたいにさ。

(笑)よく分かりました。もうひとつ参考までに、昨年の暮れに行なわれた大統領選挙の前段階で、多くのアーティストが行なった反ブッシュ・キャンペーン活動――例えば、ロック・アゲインスト・ブッシュとかヴォート・フォー・チェンジなどに対してどのような意見を持っているか聞かせてください。

Ian:いいことだと思うよ。真剣に考えた人々がいたってことが嬉しいね。まだ終わっちゃいないよ。選挙の結果に失望した人は多かったと思うけど、落胆してないで、一層努力しようという気持ちになるべきだよ。明らかに、思ってたより敵は手強かったわけだ。でも大丈夫。つまるところ、天気みたいなものだから。政府っていうのは天気みたいなものなんだ。酷い天気の時は……台風で手足を骨折するかもしれない。でもいくら嵐に打ちのめされても、いつか晴れる。政権についてる人間達も不死身じゃない。永遠には続かないよ。

アーティスト達が、選挙後も特に活動をしている様子を聞かないんですが、一過性のものだった恐れはあると思いますか?

Ian:中には「失敗に終わったぞ、さあどうしよう」って思ってる人もいるかも知れないけど、新しい刺激を受けて今後に生かすアーティストもいると思う。さらに深く関わるようになった人もいるかも知れないし。さっき君が挙げた活動は大統領選に向けてのキャンペーンであって、今は大統領選の時期じゃないから、あれがあの時期限定だったのは当然のことだよ。ただ、政治に関心を持つ人を増やしたことは確かだよね。時々「今は反戦運動がない」って言われることがあるけど、そんなことはない。今のアメリカにも反戦運動は存在する。ベトナム戦争の初め頃と比べても目立つ規模だ。歴史の教科書で、アメリカがベトナム戦争に介入してから3年経った1963年のところを読んでごらん。反戦の声はまだそれほど上がっていなかった。それから数年かけて、大きなうねりとなっていったんだ。僕はどんな政治的な運動も有意義だと思う。いい勉強になるからね。それと、孤独にならなくてすむから。

では最後に、ディスコード周辺以外で最近お気に入りでよく聴いている音楽が何かあれば教えてください。

Ian:ディスコード周辺以外か。ふむ。最近は何を聴いてたっけ……今ここにあるものを見てみると……僕の趣味は変わってて、範囲が広いんだ。最新のチャートものは聴かないけど、ヴィック・チェスナットは結構好きだな。アフロ・ポップものを研究してるところ。それからニーナ・シモンの大ファンで、あと、レゲエもよく聴く。その時の気分によって聴いてるね。Satan's Ratsという、1977年に活動してたブリティッシュ・パンク・バンドの、すごくいいシングルを集めたコンピレーションを最近入手して聴いたりとか。60年代のガレージものもよく聴くし、ジミ・ヘンドリックスだって、ヒップホップだって聴くよ。ヒューストンのScrew Musicという、スロウダウンさせたヒップホップが面白いね。音楽に好奇心があるから、なんでも試すんだ。でもこれだけは言える。1979年にパンク・ロックに夢中になってから、一度もラジオをつけてない。冗談じゃなくて、本当にそうなんだけど、ラジオで流す音楽は聴かなくなったんだ。だからホワイト・ストライプスの曲も、オアシスの曲も、ひとつも知らない。彼らが悪いわけじゃないんだよ。つまり、こういうこと。このインタヴューの間にも、世界では一生かけて聴けるくらいの音楽が生まれてる。世界の人口を考えるとね。音楽の源泉はどこまでも深い。だったら、どうして表面に浮いてるあぶくやゴミのような音楽を聴いていられる? 僕は深く潜って泳ぎ回りたいね。

なるほど。あらためて、イーヴンスの来日公演を心から楽しみにしています。今日は長時間どうもありがとうございました。来日した際にはまた対面で取材させてくださいね。

Ian:僕も楽しみにしているよ。

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