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『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』
キング・クリムゾン

Universal (UICE-9065)

 キング・クリムゾン12作目のスタジオ・アルバム『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』は、2000年5月にリリースされた。本作の完成に漕ぎ着けるまで、バンドはかなりの紆余曲折を経ている。まず、簡単にその経緯を辿ってみたい。
 ダブル・トリオ編成となって約10年ぶりに復活を果たしたキング・クリムゾンは、94年にEP『ヴルーム』、翌95年にはフル・アルバム『スラック』を発表、同時にバンド史上でも最大規模のツアーを精力的にこなし、そのまま順調に活動を続けていくかのように思われた。しかし、97年に新作のレコーディングに向けてナッシュビルで行なわれたリハーサルは、3万ドルを費やしたあげく失敗に終わってしまう(※この時の音源は01年になって『ザ・コレクターズ・キング・クリムゾン Vol.4』に収録され、聴くことができる)。事態を打開するため、ロバート・フリップは、6人の構成員が複数の違った組み合わせで演奏を試みる“プロジェクト”を提案、これに則って1から4まで番号のつけられた各プロジェクトがレコーディング/ライヴを行ない、それぞれ音源をリリースした。当初は、それらによって「クリムゾン本体に役立てる調査・開発」が行なわれた後、バンド結成25周年にあたる99年に再び6人が顔を揃えた“プロジェクト・ゼロ”=キング・クリムゾンがオリジナル・ニュー・アルバムを出す、というアイディアだったらしいが、最終的にはビル・ブルッフォードとトニー・レビンは不参加のまま、フリップ、エイドリアン・ブリュー、トレイ・ガン、パット・マステロットの4人で、クリムゾンは新作の録音に着手した。そうして完成したのが本作である。
 復活時の「売り」であったダブル・トリオはあっけなく破綻してしまったわけだが、フリップのレコーディング日誌を読むと、このアルバムを作り上げる過程において、彼が新編成での創作活動に大きな手応えを感じ、自信を持っていく様子がうかがえる。99年12月16日付けの日記の中では「現在のラインナップを第6期キング・クリムゾンとしたい」と宣言しているし、実際に次作『パワー・トゥ・ビリーヴ』も同じメンツで制作されることになるのだ。また、ブリューも、00年の来日公演時に筆者がインタビューした際「正直に言って、僕も本当にカルテットの方が気に入ってる。各メンバーが貢献しなければならない度合いが高いし、挑み甲斐があるからね。6人編成の時は、ドラムもベースも2人ずついたから、それぞれが少し譲りながら演奏してるような気がしていた。それに対して今の形だと、みんなが自分の領域でプレイヤーとして自由に君臨できるんだ」と発言していた。メンバー・チェンジの細かい理由については、スケジュールの問題、音楽面での意見の相違、そして人間関係的なことまで色々あったようだが、ともかく改めて4人編成となったクリムゾンが、80年代の第4期以来となるバンドとしての安定感を獲得したことは間違いなさそうだ。
 グループが一気に活性化したことは、この時のレコーディングで本作の他にもう1枚のアルバムが産み落とされた事実にも表れていると言っていいのかもしれない。『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』本編にも、ボーナス・トラック的に“ヘヴン・アンド・アース”というナンバーがプロジェクトX名義で収録されているが、主にインプロヴィゼイション部分をマステロットとエンジニアのビル・マニヨンが編集して仕上げた、本作と対になっているその音源は、4ヵ月後に同じタイトルでアルバム・サイズとなってリリースされるのである。同00年にプロモーションのためフリップが来日した際「プロジェクトとしての活動がどのようにクリムゾンに反映したのか?」と訊ねたところ、「それは『コンストラクション・オブ・ライト』ではなく、プロジェクトXとしての作品の方に反映している」という答が返ってきたのだが、それでも“イントゥ・ザ・フライング・パン”のリズムの一部はプロジェクト3および4で使われていたものの流用だったりするし、さらにプロジェクトの楽曲“ザ・ディセプション・オブ・ザ・スラッシュ”は以降のクリムゾンのライヴでも定番曲のひとつとなっており、やはりプロジェクトで追求された音楽性は確実にクリムゾン本体の表現にも影響を及ぼしたと思う。
 あらためて本作を聴いてみると、混沌とした要素がプロジェクトXとして分割整理されているせいか、これだけ難解かつ複雑な構造を持った曲が並びながら、トータルではクリムゾンの作品中でもやや整然とした印象を受ける。バラード・タイプの楽曲も入っておらず(※ブリューによれば、“コーダ:アイ・ハヴ・ア・ドリーム”のアコースティック・ヴァージョンが存在し、バラード的な役割を担うはずだったがカットされたとのこと)、基本的にこのアルバムは、タイトル曲および70年代の楽曲の続編的なタイトルがつけられた大作志向のナンバーと、音的にはヘヴィな質感だが奇妙なポップさも感じさせる他の3曲が交互に登場するような構成だ。前者の“ザ・コンストラクション・オブ・ライト”、“フラクチャード”、そして“コーダ:〜”も含めた“太陽と戦慄パート4”で、往時から引き継がれたクリムゾン節の極みぶりを目の当たりにすると、このバンドが未だにその突出した個性を、充分なテンションを保ったまま体現できるという事実に感嘆せざるを得ない。一方で、後者にあたる“プロザック・ブルーズ”、“イントゥ・ザ・フライング・パン”、“ザ・ワールズ・マイ・オイスター・スープ・キッチン・フロア・ワックス・ミュージアム”には、バンドの新たな可能性をもっと容易く見い出すことができる。特に“プロザック・ブルーズ”におけるブルーズの導入は、フリップのブルーズ嫌いが定説化していただけに、多くのファンを驚かせた。これは「クリムゾン流にブルーズをやってみよう」という提案を、ブリューが上手くフリップに通したことで実現されたようだ。ちなみに、このクリムゾナイズ・ブルーズは一過性の試みには終わらず、後にEP『しょうがない』に収録された“ポテト・パイ”でも再び展開されている。
 蛇足で書いておくと、その『しょうがない』とアルバム『パワー・トゥ・ビリーヴ』に繋がる橋渡し的なEPとなった『レヴェル・ファイヴ』(※一部地域をトゥールと一緒に廻ったことで話題となったアメリカ西海岸ツアーからの演奏も収録された)には、“ザ・コンストラクション・オブ・ライト”のライヴ・ヴァージョンが再録されているが、フリップ自身「ライヴで演奏されている曲は全て、その中で進歩する」と語っている通り、生演奏の機会を多数こなしたことによって、同曲がさらなる高みに到達した様を確認することができる。
 また、本作リリース後に行なわれたツアーの模様は、3枚組のライヴ作品『ヘヴィ・コンストラクション』としてまとめられ、リリースされているので、もし未聴な方がいたら(いないとは思うけど)是非あわせて耳を傾ける機会を持ってほしい。ちなみに『ヘヴィ・コンストラクション』のディスク3には、ライヴでのインプロヴィゼイションをマステロットが編集したものが収録されているが、プロジェクトXからそれを経て、『パワー・トゥ・ビリーヴ』ではデジタルなサウンド処理がとりわけリズム面においていっそう大きな比重を占めるようになってきていることが分かるだろう。そこまで俯瞰してから本作『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』の位置付けを考えてみると、「キング・クリムゾンが21世紀へと向けてさらに音楽性を発展させ、突き進んでいくにあたって、その足場固めをした作品」という気がしてくる。そして、あらためてキング・クリムゾンというバンドの希有なあり方に感じ入るとともに、今後も彼らに対する興味はまだまだ尽きることはなさそうだ。

2004年1月 鈴木喜之


※本稿は、国内盤アルバムのライナーノーツとして書かれた原稿です。

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