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スキニー・パピー時代に経験したことで、あなたにとって特に大きかったものと言うと、どんなことになりますか?

Dave:初めてヨーロッパに行った時って、まだベルリンに壁があってドイツが東と西に分かれてたんだ。で、どういうわけか、東側もライヴで回ってほしいっていうオファーがその時あったんだけど、知り合いの誰一人として東欧に行ったことがなかったし、僕には衝撃そのものの体験だったね。国境線を越える時に国境警備兵がいて、まるで入っちゃいけない場所に入っていくような気分になったことは今でも忘れられないよ。西側の普通の人間には決して足を踏み入れられない場所っていうかさ。なのにどういうわけか連中はスキニー・パピーを招き入れて、しかもそこでライヴをやってほしいって言って、金まで払ってくれた。あの時は思わず他のメンバーにこう言ったよ――「どうやら俺たち、とんでもないものをクリエイトしたらしいぞ」ってね。普通は入れないような地域に僕らを入れてくれた上に、金を払ってまで僕らの演奏を聴きたいって言うんだから。世界が西と東に分かれる最高に奇妙な状況が起きてる真っ只中に、あちら側の世界に招かれたのは本当にスペシャルな瞬間だったと思う。ホラー映画みたいな轟音と正気をなくしたような怒声ヴォーカルっていうクレイジーなバンド――あちこちで「聴くに耐えない」って言われてたあのバンド――が、まだ多くの者が招かれたことのない場所に招かれたんだから、まさにスキニー・パピー全キャリアの中でも真に特別なものだったと思うよ。

なるほど。で、スキニー・パピー解散後は主に、ミキサーやエンジニア、プロデューサーとしての活動を行なってきたわけですが、その中で最も印象深かった経験というと、どういったことでしょう?

Dave:一番ツラかったのは、やっぱりマリリン・マンソンの『アンチクライスト・スーパースター』の制作じゃないかな。ものすごい仕事量でめちゃくちゃ長い時間がかったし、四六時中空気が張り詰めた状況下でのレコーディングだったからね。とにかく緊張度も仕事量もハンパじゃなくて、「生きてこのアルバムのレコーディングを終えられるだろうか?」って心配になったことも何度かあったくらいさ。おかげさまで何とかやってのけて、信じられないくらい素晴らしいレコードを作ることができたけどね。レコーディング当初から「これはとんでもなくスペシャルなレコードになる。でもその分、命を犠牲にするくらいの覚悟がなきゃ作れない」っていうことは分かってたんだ。なんとか全員無傷で乗り越えられたけど、あれはホント、人生で最高にクレイジーな時期だったよ。

そこまで大変だったというのは、やはり当時はマリリン・マンソンのメンバーにしろトレント・レズナーにしろ、みんなヤバいところまでイッちゃってたっていうことが原因ですか?

Dave:っていうか、あのアルバムの曲ってどれも別個にレコーディングしてて、1曲ごとにレコーディングをゼロからやり直すって感じだったんだ。だからどの曲もそれ1曲で1枚のレコードって感じで、1曲完成するたびに「ふーっ、さあ次の曲をやらなきゃ」みたいな状況でさ……。5曲目に入る頃には、もう全員が疲労でガタガタの状態でね。どの曲も1週間から10日かけてレコーディングしてたし、そのうちまるで、戦争でもやってるような感じになってきたんだよ。新しい曲に取り掛かるたびに新たな戦いに向かう、みたいなさ。マンソンもトレントもツイギーも僕も、毎回「さあ再結集してゼロから始めよう」って状況だった。特に僕にとって一番キツかったのが、レコーディングのはじめに「ギターを一切アンプにつながない、アルバムの最初から最後までギター・アンプを使わない」っていう約束をしちゃってたことで、ロック・ギタリスト出身の僕としては「アンプ抜きで毎回ギター・サウンドに変化をつけるなんて、どうやったらやれるっていうんだ?」って感じだったんだけど、みんなは「だからお前を雇ったんだろ。それこそお前にやってもらいたかったことなんだから」って。

(笑)。

Dave:気がつくと、ギター・ペダルとかエフェクト類とか、とにかく使えそうなものを部屋中這いずりながら探しまくってたよ。繋ぎ方も色んなことを試してね。それでも「これじゃ足りない! ちっとも変化してない!」って感じで、常に格闘してたんだ。曲ごとに新しいギター・サウンドを作るために、毎回新しいアイディアを思いつかなきゃならなかったわけ。でも、そうやって強要されて追い込まれることで逆にエネルギーが沸くっていうか、さっきも言ったように僕って自分に厳しい人間だから、「よし、毎回違うギター・サウンドを作ってやる!」って宣言しちゃったんだよね。でも、そういうことを強要されるってこと自体は大した問題じゃないんだ――さらに努力が必要になることだけ覚悟さえしておけばさ。

そもそもアンプを使わないと決めたのはどんな理由で?

Dave:マンソンのアイディアだった。というのも、トレントが既にそういう手法を取り入れてたんだよね。ズーム・ペダルを使ってレコーディングしてて、それをマンソンがすごく気に入ったんだ。マンソンはもともと変わったことをやるのが好きだし。それで「今回はアンプを一切使わない」と宣言したわけ。そういうオリジナルなアイディアを思いつくのが大好きなやつなんだよ。僕にとっては、とんでもないチャレンジではあったけどね――「やれるか?」って訊かれて、僕も「もちろん」なんて答えてしまって……。でも、それってアルバムの他の部分でも同じで、たとえば“Beautiful People”のドラム・サウンドのイメージなんかも、「どうやってそのサウンドを実現させるんだ?」って感じで、そんな風に、とにかくじっと座ってパズルでも解いてるような状況が、あの時はすごく多かった――「どうすればいい? どうやったら解ける?」ってね。だからアルバムの最初から最後まで、本当に凄まじいエネルギーを使ったし、マンソンの思いついたアイディアを僕が必ず実現させるっていう闘いの繰り返しで、チャレンジングって言葉がピッタリのレコーディングだったよ。

分かりました。では次に、リミックスという作業に関して質問します。ここ10年くらいの比較的新しい表現手法だと思うのですが、他人の作った素材を使って何かをリクリエイトする作業に向かう時には、どういったことを心がけていますか?

Dave:うんうん、元の曲に常に敬意を払うようにしている。それもトレントから学んだことで、トレントとは互いに教え合い学び合う間柄なんだよ。彼と最初にリミックスの仕事を始めた当時の僕は、他人の曲を持ってきてバラバラに分解した挙げ句そのほんの一部しか使わないっていうやり方に、まだ躊躇を感じてた。だからいつも、たぶん必要以上に(元の素材を)使おうとする傾向があったんだけど、トレントと一緒に仕事をするうちに「リミックスがやりたいのなら、原曲の中で自分の好きな部分を探してそれだけを持って来て、その周りにまったく新しい曲を作っていけばいい」ってことに気づいたんだ。そのことにかけてはトレントはまさに達人でね。僕はそれまで、リミックスした作品を元歌の持ち主に聴かせた時、完全に別人の作品に変身してたら腹が立つんじゃないか?って恐れてたんだけど、実はその正反対だってことが、トレントとの仕事を通して分かったんだよ。デヴィッド・ボウイやネプチューンズやピーター・ガブリエルのリミックスをやった時も、オリジナルからかけ離れたことをやればやるほど、本人たちはもっと喜んでくれた。その究極例がエイフェックス・ツインで、あいつのリミックスはオリジナルの影も形もなくなってるわけだけど、それは僕にはトゥー・マッチだから、せめてオリジナルにあったパートの自分なりのヴァージョンを使うことにしてる。たとえば、オリジナルにあったドラム・サウンドそのものは使わないけど、そこで組み立てられていたリズムをまったく違うサウンドで構築し直したり、そのリズムのヴァリエーションを使おう、という風に考えるんだ。つまり、オリジナルをバラバラに分解してしまうことを恐れずに自分のやりたいようにやった方が、相手も気に入ってくれるみたいだし、こっちとしてもその方が楽しいってことだね。

自身の作品も含めて、過去に聴いてきたリミックス作品の中で「これは素晴らしい、評価できる」という作品を教えてください。

Dave:時代にもよるんだけど、たとえば80年代だと、エイドリアン・シャーウッドとジム・サーウェル(※フィータス)の二大巨匠によるリミックスは本当に素晴らしいと思う。他人の曲の一部からエキサイティングな別の曲を生み出すことにかけては、この二人は信じられないくらいの才能の持ち主だよ。でもこれは今とは違う時代、コンピューターが導入される前の話で、やり方も今とは全然違ってたんだ。全て直接の手作業だったし、そういう意味では今よりもクリエイティヴじゃなきゃできなかったことなんじゃないかな。コンピューターが無かったわけだからね。で、そこからだんだん状況が変わっていったわけだけど、たとえばコイルのリミックスなんか大好きだし、もちろんエイフェックス・ツインも大好きだよ……ただ彼の場合は、素晴らしいと思う時もあれば、全然ワケわかんない時もあるけどさ。あと、オウテカも最高だね。でも、さっきも言ったけど本当に場合によりけりなんだ。誰が誰のどの曲をやってるかっていう、組み合わせ次第っていうか。だからどの時代にも好きな作品がちょっとずつ存在する感じなんだけど、リミックスに関して最初にインスピレーションを与えてくれた初期のアーティストってことでいうと、シャーウッドとサーウェルの2人ってことになるね。

今、名前が出たアーティストの作品の中で、特に気に入っているトラックは?

Dave:いや、即座には思い浮かばないな。10分くれたら答えられるかもしれないけど(笑)。

(笑)では最後に、ジャカロープの今後の予定について教えてください。

Dave:カナダに戻ったら、ライヴ・バンドのメンバーも1週間ほど僕らと一緒にバンクーバーにとどまることになっているから、その間に次のアルバム用の曲をもっと作る予定だよ。で、引き続きケイティとヴォーカル部分の作業に入って、その時期いったんトロントでショウもやることになってるけど、後はレコーディングに専念して12月には完成させるつもりなんだ。まだ歌詞もヴォーカル部分も全然できてないから、あと2ヵ月で頑張って作らないとね。で、たぶん1月にはツアーを再開してると思うよ。

では、ニュー・アルバムのリリースは春頃になりますかね?

Dave:ああ、3月を目指してる。

ついでに、音楽でも食べ物でも何でもいいんですが、今ハマっているものは何か教えてください。

Dave:アイスホッケー。ミュージシャン仲間と一緒によく試合してるんだ。もう何年になるかな……そう、15年間ずっと毎週月曜日に試合してる、1年中ね。しばらくやれなかったりすると、寂しくて気が変になりそうだよ。それから娘と一緒に遊ぶこと! この2つが僕にとってスペシャルなことだね。

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