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New York, 2002.11
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation and translation by Stanley George Bodman


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ジェイソン・ファレルは、以前のバンド=ブルーチップでディスコードから合計4枚のアルバムをリリースしており、来日公演も2度にわたって行なっている。しかし、外からは順調にキャリアを重ねているように見えたブルーチップは、2001年の暮れになって唐突に解散。ワシントンD.C.からニューヨークへと移り、すぐさま新バンド=レティソニックを始動させたジェイソンには、何やら心中に期するところがあるようだ。ディスコードを飛び出し、より大きな世界に乗り込もうとしている彼が、持ち前のあっけらかんとしたポップ感覚とアイドルっぽささえ漂わせるチャーミングな歌声でもって、果たしてどこまでやってくれるか、その期待は大きい。

「僕達が書きたいのは、アグレッシヴでフックのある曲、またはアグレッシヴじゃないフックのある曲、あるいはもしかしたら単に良い曲、なんだ」

レティソニックのデビューEP『リーン・ビート』、聴かせていただきました。まず最初に、この『リーン・ビート』というタイトルの意図するところを教えてください。

Jason:『リーン・ビート』とは僕達の音楽スタイルの名前だ。自分達がやってる音楽がどのようなタイプであるかを説明するのは非常に厄介なことで、これまでにも的外れな言葉を使われたり、似てもいない(または嫌いな!)バンド名とひとまとめにされてきたよ。エモとかポスト・ハードコアとか、パンクとかロックとかいった言葉は少しも僕達のバンドのサウンドやフィーリングを言い表わしていないし、実際それらの言葉はなんの意味も持っていない。僕達はそういった言葉を使う代わりに、新しいスタイル/新しいジャンルの呼び名を模索したんだ。僕達の音楽の感覚を言い表せるだけでなく、音楽をクリエイトして行くためのガイドラインにもなるようなね。「リーン・ビート」には二つの意味がある。ひとつ目は、“引き締まった”、簡潔な、焦点の絞られた、ダイレクトな、複雑なアレンジが自由な曲作りのこと。ふたつ目は、曲にドライブ感を持たせたり、ビートに寄り掛かった様なプレイ。アグレッシヴな曲では次のスネアの音が前のめりに突っ込んだ感じにプレイするし、ゆっくりした曲では酔っぱらったみたいにビートの後方を引きずる様にプレイする、というような感じで……曲がこうあるべき、またはこうしたいというままに僕達はプレイしようと考えているんだ。

レティソニックは現在のところ、バンドではなく、2人のユニットになっているようです。ずっとこの体制でいくのか、さらにメンバーを増やして通常のバンド形態になるのか、どういう方向性を考えていますか?

Jason:最初からドラム/ギター/ベースの3ピース・バンドにしたかったんだけど、3人目のメンバーを迎える前に、ジョーと2人で、僕が書き溜めてあった曲をアレンジしてしまいたかったんだ。そうして『LEAN BEAT EP』をレコーディングする準備が出来た頃には、まだ最適なべーシストが見つかっていなかったから、僕がベースを弾いた。でも最初のツアーに出かける前に、ジム・キンボールがベースを担当してくれる事になった。とてもうまくいったよ。現在のライヴでは最初に意図していた通りに3ピースでやっている。

新たな創作パートナーに選んだジョー・ゴレリックについて、彼と組むことにした理由も含めて改めて紹介してください。

Jason:数年前、ブルーチップのドラマー(たくさんいた内の1人目!)が脱退したのと時を同じくして、ジョ−がやってた前のバンド=ガーデン・ヴァラエティが解散した。当時はまだ顔見知りではなかったんだけど、彼の方からディスコード・レコードに電話してきて、僕らにコンタクトを取ってきたんだ。僕達は(※ブルーチップとして)ジョーと一度だけツアーに出て、64日間で65回ショウをやったよ。それが終わって、彼はD.C.に引っ越したくないという気持ちからバンドを辞めた。そして、去年の暮れになって僕はジョーに連絡を取り、ブルーチップのラスト・アルバムを渡すついでに、いろいろと話をした。そこで僕は、自分がどんな音楽をやっていきたいのかということや、ドラマーを探していると言うことを伝えたんだ。

ブルーチップ時代と比べて、レティソニックでは作曲やアレンジの方法などについても何か変化があったのでしょうか?

Jason:まったく違うね。作曲はとてもハードな作業だ。ブルーチップにとって作曲は戦いだった……。メンバー全員がバンドの曲やバンドのあるべき姿について、それぞれ違うアイディアを持っていたからね。そういうのも時にはいいけど、大抵は不満ばかりだった。僕が、歌のパートとアレンジに対して「こうするべき」という強い意見を持っていくと、皆は各楽器のパートを考え、次に各々の思いつきに基づいた何千もの違うアレンジを試してみて、歌は千切られ、引き延ばされ、痛めつけられ、裁決され、壊され、また掘り返され……最終的に全員が疲れ切って合意に達する頃には、結局のところ僕が最初に持って来たアレンジとほとんど変わらないものに落ち着くんだ。僕はレコードで聴くブルーチップのサウンドは最高だと思ってる。戦いの甲斐はあった。でもライヴでは、メンバーそれぞれの入り組んだプレイをごちゃまぜにした感じにしかならなかったんだ。レティソニックとしては、ブルーチップが作曲する時に直面していた、そうした余計な労力や苛立ちを排除したかった。今は僕が歌メロのアイディアにマッチするようにギターで曲を作り、シンプルで曲を支える様なベースラインを探し、それがうまく交差するようなアレンジを組み立てる。そして、ジョーとそのアレンジを試して、曲の焦点が定まるまで微調整や多少の変更を加えるんだ。その作業の間には、ライブ演奏でもうまくいくように、ということを念頭に入れている。とりあえずこのEPにはそんな感じで書かれたものが収まっているんだ。けど、この先どうなるかについては誰にもわからないな。

レティソニックとは、ブルーチップ時代の曲名でもありますが、この言葉を新たなバンド名に掲げた理由、この言葉についての思い入れなどがありましたら教えてください。

Jason:ブルーチップの“レティソニック”という曲の歌詞を書いた時、僕はすでにブルーチップが解散する事がわかっていた。この曲は新しく始めるバンドのイントロダクション(ライヴ告知のフライヤーみたいな物?)だね。僕が考えた造語なんだけど、響きも気に入っている。

今作のプロデューサーは、ブルーチップ時代以来の長いつきあいとなるJ・ロビンズですが、やはり彼との作業はやり易いですか? それ以前にはイアン・マッケイのプロデュースも受けていますが、2人のプロデューサーとしての手法の違いなどはあるのでしょうか? それぞれの特徴について教えてください。

Jason:僕はJと作業するのが好きだ。レコーディングでは、僕達はとても共通した好みを持っていると思う。彼は各楽器を単体でも他と合わせる時でも最高の音に仕上げるために、とても一生懸命働いてくれる。彼と作ったブルーチップの2枚のアルバムはどちらもすごく満足しているし、レコーディング・セッションもすごく面白かった。特にブルーチップの2枚目のアルバム『JOIN US』を作った時は楽しかったね。ブルーチップの最初のアルバム『DISCORD No.101』ではイアン・マッケイにプロデュースしてもらったけど、僕が会う多くの人はあれをベスト・アルバムに挙げる。イアンからの影響も大きいね。彼は「なぜレコーディングするのか」という強い考えを持っていて、バンド自身でさえ気がついてないような、自分でコントロールできない一瞬の火花を捕らえようする。そういう瞬間を生み出すような状況を作り上げる手助けをしてくれるんだ……コミュニケーション、意志、実験、記録によってね。そして、あまり整頓しすぎないこと。そのことが結果的に生々しさと真実に結びつくんだよ。皆、僕にこの2人を比較させたがるけど、僕の心の中では2人とも偉大なプロデューサだ。2人の違いだって? それは『DISCORD No.101』と『JOIN US』を聴き比べておくれよ。イアンもJも、お互いを引き合いに出して批評するには繊細すぎる。この2人の機嫌を損ねちゃいけないんだってば。

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